残雪のGW焼岳ハイク その2

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焼岳南峰頂上までの道のりは直登となる。

雪の斜面を、アイゼン付きの登山靴で一歩ずつ強く踏みしめながら登る。雪がシャーベット状の斜面では1歩登っては雪が崩れ、3歩分滑り落ちるときもあった。登り進めるに連れ、次第に軽快さが失われていき、1歩1歩なんとか気力を振り絞りながら前へと進む。

師と別れてから30分ほどが経っていた。「早く登って、すぐに降りねば」という焦りが、ペースを少しずつ狂わせていく。どれだけ歩み進めようとも、すぐ目と鼻の先にあるように感じる頂上が、一向に近づいてくれる気配はない。このときの気持ちをどう例えるべきか。そんなことをブツブツと考えていた。夢にたまに出てくる、前に進もうとしても上手く動いてくれない足のような、そんな感じだろうか。時折膝をつき呼吸を整えながらも、必死に頂上を目指した。

登り始めて1時間がたっただろうか。目先にあるトレースをなんとか追いながら、少しずつ進んでいたら、いつの間にか頂上付近まで登りつめていた。ふと、後ろを振り返ると、目がくらむような高度感に襲われた。足元ばかり見ていたせいで、自分がどれだけ登ったのか全く気がついていなかったのだ。
そのときようやく自分が登ってきた道のりを、一筋の足跡をもって理解した。

山頂のひらけた場所では一組のパーティが和気あいあいと食事を摂っていた。
この時感じた感情は今でもはっきりと覚えている。
登頂できた達成感よりも、自分以外の人間が近くにいるという安心感に強く心を打たれていた。

たかだか1時間程度の単独行に何を大げさな、と思うかもしれないが、この1時間で選択・決断した回数は日常生活におけるそれとは比にならず、自分の命を自分自身の手で握っているという緊張感が終始つきまとっていた。誰か自分とは違う人に出会えたことで、その緊張感から開放されたのだった。

そこからの行動は、とても淡々としたものだった。
山頂は氷点下をゆうに超える寒さだ。すぐにダウンジャケットを着込み、湯を沸かし始めた。こんなときにアルコールストーブなんてどうかしてると自分でも思ったが、特に問題なく400mlのお湯を沸かすことができた。
クッカーにうつしたカレーメシに湯を注ぐ。立ち上がる湯気とカレーの香りを顔いっぱいに浴びると、心なしか元気が湧いてくるようだった。
カレーメシが出来上がるまでの5分間、もってきた食料を次々と口に詰め込んでいく。バターパン、フライビンズ、チョコレート…、これはもう食事というよりも燃料補給に近い作業だった。

水の分量を多めにして作ったカレーメシはスープカレーのようで、口から流し込むようにして食べると体の芯まで温まるのが分かった。手先まで温まり、指がしっかりと動かせるようになったところで、すぐに撤収作業を開始し、麓にて帰りを待つ師のもとへと急いだ。

師と別れてから、すでに2時間近くが経とうとしていた。


(あと1回だけつづきます)