残雪のGW焼岳ハイク その1

「ここから先は、君一人で行ってきなさい。私はここで待っているから。」

一回りも二回りも歳が違う山登りの師が、携えていたピッケルを雪に刺し、小さくかがみ込んでから、僕にそう言った。
ちょうどここは、新中の湯ルートを2時間半ほど行ったところにある開けた場所で、これから登る焼岳南峰頂上付近はガスに包まれ、空には雪がちらつき始めていた。

この時がきてしまったか、と僕は思った。これまでの足取りは重く、本来想定していたコースタイムを既に倍近くも上回っていた。もしかすると途中で引き返すか、一人で登頂することになるかもしれない、と心のどこかでぼんやりと考えていたことがついに現実となってしまった。

師は2年ほど前に手術を受けており、その後遺症で腕を思うように動かすことができなくなっていた。そこから自然と山からは遠ざかり、実に2年ぶりの山行だった。一緒に山に登るのは今回が最後かもしれない、と覚悟を決めていた中での出来事だった。

「分かりました。できるだけ早く登って、食事を済ませてすぐに降りてきます。」

過去に冬の涸沢岳に登った際に手痛い失敗をしていた僕は、内心、不安でいっぱいだった。山登りは常に自分に対して正直でいなければ、必ずその奢りは疲労や怪我というかたちで自分に返ってくる。過度な疲労は判断力を奪い、最悪の場合、命につながるような事態を招いてしまう。

僕は深く息を吸い、雪覆う焼岳南峰へと向かった。

(つづきます)