/ 2025.07.28 /
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93層目のヘンリー・D・ソロー
今、作業部屋じゅうにプラスチックを溶け焦がしたような匂いが立ち込めている。ソローの『森の生活』を手に取ったのはいつだったかすっかりと忘れてしまったが、初めて読んだとき以来すっかりと感銘を受け、今でも時折適当なページを開いては少しだけ読み進め、栞も挟まず閉じるといったことを繰り返している。本書の中でソローがウッドチャックに対して愛情を示したり、農作物の盗み食い(ウッドチャック自身にその気はない)にマジギレしたりする姿がとても気に入っていて、たまたまそのページを引き当てた時は少しだけ気分がいい。この文章を書いているあいだも部屋の隅ではa1mini(3Dプリンター)が一生懸命稼働しており、ソローの胸像を下から一層ずつ積み重ねている。
私には、凍った池で最高に興味深い観察の対象は氷でした。氷を観察するなら、早い時期から始めるに限ります。たとえば、最初の氷が張った朝すぐに、よくよく氷を観察してみると、初め氷の中にあるようにみえる空気の小さな泡が、じつは氷の下面についたもので、それにたくさんの気泡が水底から湧き上がってくることに気づきます。
(「ウォールデン 森の生活」 著:ヘンリー・D・ソロー / 訳:今泉吉晴 / 発行:小学館)
当たり前で代わり映えしない(かのように思える)風景に対し、小さな発見を見出すというのは簡単なことではない。ここで綴られた言葉は平易であり、それらを並べた文章には何ら格言めいたものは存在しておらず、そこにあるのは純粋な描写と、素朴な喜びである。このことの大切さを僕は忘れないようにしたい。ただの生活は自分が望むと望まざるに拘わらず、ただ続いていく。今この瞬間、a1miniは500層あるうちの93層目を積み重ねている。その93層積み重ねられたものを見ても、これがこのあとソローに繋がっていくとは到底思えない半端な物だ。何を日々積み重ねているのか不明瞭な僕もまた半端な者であり、積み重ねていくことで何者かに繋がっていくことを日々夢見ている。