生活の風味

久しぶりにまたコロナを患い、今回は味覚障害と嗅覚障害の後遺症というおまけつきだった。コロナのしんどさには慣れたつもりだったが、この後遺症は、さらりと通り過ぎるにはあまりに重く、日々の生活に深く不快な根をおろした。自分から少し遠ざかってしまったようなこの感覚。自分に拒絶され、自分をうまく扱えず、ずっと意識に靄がかかった感じ。これまで数々の病みの要素をパワーで跳ね除けてきた僕だが、これにはかなり堪えた。僕は、僕の日常に、ひどく依存していたらしい。気づくと観ている映画は料理人のもの(「シェフ」は良かった)ばかりだし、少しずつ読み進めているプルーストの「失われた時を求めて」からも、味と匂いについての一節ばかりを掬い取り、頭の中で何度も反芻してしまう。緩やかに、かつ確実に回復へと向かっているという手応えはある。けれど、文字通り全く味気のないこの日常の厄介さはなかなかだ。三ツ矢サイダーが美味しくない人生なんて、僕の人生ではない他人の人生だろう。

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