ハタネズミと世界

『極北の動物誌(ウィリアム・プルーイット著)』の3章に「ハタネズミの世界」というお話がある。極寒のアラスカの大地を生き抜く小さなハタネズミの生活を、ハタネズミ目線で綴ったお話だ。雪がどっさりと積もる大地の下、地中のごく浅いところに、なわばりとなるトンネルを堀り、その中を縦横無尽に駆け回るハタネズミの姿は想像に容易く、小気味よく動くであろうその姿はコミカルで可愛らしかった。

旧世界では「エコノムカ(主婦)と呼ばれているが、こちらのほうが性質をよく表している。ハタネズミは社会性のある動物ではなく、仲間と接触しようという気持ちがまったく見られなかった。自分の世界に閉じこもり、巣穴からなわばりのすみずみに広がる自分のトンネルと通路網の中だけで暮らしていた。

ウィリアム・プルーイット 著, 岩本正恵 訳. 極北の動物誌. 新潮社, 2002, p.38.

まるで自分のことを指して言っているようなハタネズミの生態に対し勝手に親近感を覚えながらも、厳しい冬を耐え凌ぎなんとか越えてゆく姿を、固唾を呑みながら見守った。
当たり前のことだが、この世界には生き物の種類の数だけ生態系があり、また、それぞれ生き物の命の数だけ暮らしがある。他の生き物の暮らしに思いを馳せ、ぐるりと巡って自分の暮らしに帰ってくると、ぼんやりと浮かび上がる自分の性質を目の当たりにする。それは、上下のヒエラルキー(階層)としてではなく、横並びのボンド(絆)として、自分も地球に暮らす生き物の一員であると強く感じさせてくれる大切な一瞬だ。

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