すこし遠くへ その3

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テントを張り終え一段落すると、薪を探しに森の中へ。

第二次世界大戦後、多くの山が丸坊主になった日本では、
失われた緑を再生するために国指導のもと大量の杉が植林された。

そのおかげで僕は、
いまこうやって着火剤となる杉の枯葉を容易くあつめることができる。

 
「枯葉サイコー!クタバレ花粉!!」

 
◆ ◆ ◆
 

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何時間眺めていても見飽きないもの。
眺めるだけで、心を空っぽにできるもの。
それは“焚き火”だ。

日が落ちてからというもの、よりいっそう虫や獣の声が大きくなってきた。
夜の森が静かだと思っている人は、ぜひ夜の森で一晩過ごしてみてほしい。
夜の繁華街以上に、さまざまな生き物たちで賑わっている。

隣のテントでは相変わらずQUEENの曲が流れており、
酔っ払いながら楽しそうに歌うカップルの声が聴こえてくる。

どの生き物も、愛すべき隣人への配慮など全く無いらしい。

 
◆ ◆ ◆

 

何十回目かのあるテイクで彼はこう言った ――
「君らの始まりはまだ終わっていないんだ」。
それは元の台詞よりもずっと明確で素敵なイメージだった ――
始まりの中にも始まりがあり、真ん中があり、終わりがある。

『IT CHOOSES YOU -あなたを選んでくれるもの- / ミランダ・ジュライ著』より引用

 
真っ赤に燃える薪がパチパチと音をたてて崩れた。

ふと我に返り時計をみると、2時間が経っていた。
2時間も焚き火の前に座り物思いに耽っていたのに、
つい数十秒前まで何を考えていたのか上手く思い出せなかった。

“何かに夢中になって人生を過ごした人は、実際に年をとるのが遅くなる”
という文章をどこかで読んだのをふいに思いだす。

目の前にあるものを掴もうと、その一心で日々を足掻いていたら
いつの間にか30年が経ち、子が生まれ、親になっていた。

つい昨日のことのように小学校1年生の自分を思い出せるというのに。

石を蹴りながら通学路を歩いている自分も、
熱を出しながら受験勉強をしている自分も、
大切な人達の前で結婚の挨拶をしている自分も、
今、僕の中にはっきりと存在している。

何も変わっていないはずなのに、大きく変わってしまった今を
ひとつずつ手にとり、じっくりと眺め、
ゆっくりと飲みこむ時間が僕には必要だった。

悲しくないといえば嘘になる。
幸せじゃないといえば嘘になる。

あんなにぼうぼうと燃えていた火も、いつのまにか小さくなっていた。
ぬるくなったビールを焚き火にかけ、テントの中へ。

隣のテントから聴こえてくる、
下手くそで底抜けに明るいQUEENの歌に耳を傾けながら
いつのまにか眠りに落ちていた。

(終わります)