日々に沈殿するそれは

たまたま安く手に入ったからと、聞いたことのない名前をした木の板材を、複数枚繋ぎ合わせて作られた作業机。当時付き合いのあった先輩のお兄さんが、本業である内装屋の傍ら趣味で行っている家具作りの一環でこしらえてくれた机だ。正確には、こしらえてもらったのは天板のみで、机の脚はIKEAで買った鉄製の黒色の脚を2脚揃えて使っている。机は広ければ広いほど良いと思っているので、幅は180cm、奥行きは80cmあり、作業部屋に搬入した当初はこの机の上ならどんな作業でも広々とできると思っていた。今は机の余白を埋める勢いで沢山の機材が所狭しと敷き詰められ、様々な本が机の端っこに、今にも倒壊しそうなジェンガのようにハラハラと積み上げられている。赤色のケーブルが机の上を何本も走っており、まるで血管みたいだなと思う。机の両端に左右対称に設置されたスピーカーと、そのスピーカーをのせているスピーカー台。左右対称の調和を乱すように片側の支柱に設置された二酸化炭素メーターのランプが黄色に点滅し、この部屋の空気が澱んでいることを伝えている。前のめりに机に向かって作業しているときには視界に入らないが、集中力が切れ、椅子の背もたれに寄りかかってタバコを吸っているときにはしっかりと目に入る位置に設置された二酸化炭素メーターを一瞥し、設置した当時の自分の計算高さと、いらぬ配慮にうんざりする。夕方になって日が落ちてくると、強烈な西日が自分の背後からパソコンのディスプレイに向かって射し込む。太陽の光にディスプレイのライトが敵うはずもなく、全く見えなくなったディスプレイを眺めながら、為す術なく作業を諦めてタバコを吸いはじめると、二酸化炭素メーターが澱んだ空気をすぐさま察知し、色を変えて怒り始めるというこのコンボを、ここのところ毎日味わっている。森山大道はカメラを持って外出する際、事務所の壁に貼られたアサヒカメラの広告を必ず撮るし、中平卓馬はカメラを持って外出する際、電話で時報を聴きながら、必ず腕時計の時間を合わせる。僕にとっての日々における儀式めいたことの一つに、タバコを吸って二酸化炭素メーターに怒られるという項目が新しく付け加えられたかもしれない。

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