機動戦士 僕

土曜の心地よい昼過ぎの日だまり。
部屋の床に散らかった毛がキラキラと輝いている。

「なあ、抜け毛。おまえいったいどこから抜けたんだい」

返事はない。

「なあ、抜け毛。つい先日掃除機をかけたんだが、おまえいったいいつごろ抜けたんだい」

もちろん、返事はない。

つけっぱなしのパソコンのディスプレイではinlivingの動画が流れている。
きっと彼女は床に抜け毛をとっちらかすことなんて無いのだろう。

ためしに、抜け毛を指で摘んで日にかざしてみる。

「なあ、抜け毛。お前はすね毛か?」

「・・・・はい」

抜け毛をそっとゴミ袋にほうり、洗面所に向かう。
不必要に大きな鏡には、歯磨き粉の飛沫がキャンパスに散らした白い絵の具のようにこべりついている。生活の端々に日々の小さな諦めが山積し、これらが瓦解するとき、きっと僕は参ってしまうのだろう。

僕の中の僕が僕に語りかける。

「僕が一番僕をうまく使えるんだ・・・っ!」

開けた窓から外の冷たい風が部屋へと流れ込む。近所の公園からはボールを蹴る音がする。一時停止していた映画が急に再生されるように、自分と世界とが繋がり同期していく。

・・・ハクション!

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