/ 2019.07.10 /
3-6 /
機能的固着と創造的問題解決
機能的固着と聞いて、何を思い浮かべるだろうか。
勘の良い人は、その字面からおよその意味が推測できるかもしれない。
機能的固着とは、その物や道具に対して想定された使い方や機能に固着するあまり、他の機能として用いるという発想が阻害されてしまうことをさす。
例えば、ここに金属製のザルがあるとしよう。大多数の人は、ザルは水を切るための道具であり、それ以外の機能や代用方法について考えることはない。だが、発想を転換すると、この金属製のザルは揚げ物時の油はね避けになったり、ビビィサックで野宿する際の虫よけになったりする。この機能的固着という認知バイアスに対する有名な実験としてドイツの心理学者であるカール・ドゥンカーの「ロウソク問題」がある。興味のある方はぜひ読んでみてほしい。
物は高度に加工されることで、その素材や形状が本来持っていた多様性や可能性を覆い隠してしまう。このことが、物を必要以上に持ちすぎてしまうことに繋がっているように思う。事はなかなかに深刻で、今日の情報化社会では機能的固着を退けることは難しい。何か問題と対峙した際、知恵を絞る間を与えられることなく、あなた好みにチューニングされた広告群があの手この手を使ってあなたの前に現れるからだ。(googleで「中年 太った」と検索するとダイエット広告がストーカーのように付きまとうようになる)
全ての情報源を絶ち世捨て人のようになればこの問題は解決するだろう。だが、都市に身を置き、デジタル機材を生活インフラとして活用しながら生きている以上、大量の広告や情報を遮断することはほぼ不可能に近い。
そんな僕でも、唯一この機能的固着という呪縛から開放される瞬間がある。
それは、登山をしているときだ。登山というある種の極限状態に身を置くと、創意工夫を持って問題解決にあたる必要性が出てくる。物理的に持ち運べる荷物に限りがあるからこそ、臨機応変に様々な物を組み合わせたり、代用することが大前提となるのだ。
エマージェンシーキットとして必ず持ち歩いているダクトテープは、壊れたテントの補修剤、あるいは剥がれた靴底の代用・固定、あるいは怪我をした際の応急手当、あるいは火起こし時の着火剤として使うことができる。普段家で生活しているときには、思いつきもしない用途ばかりである。
この創造的問題解決こそが生きる知恵であり、物以上に価値のある無形の道具ではないだろうか。
早川書房
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