天才、馬鹿、凡

その人は天才だった。他人の数手先を読み、口から出る言葉は全て的を得ていた。いつ見てもPCにかじりついて仕事をし、いつ寝ているのか分からなかった。いつも怒っていて、いつも独りだった。時折見せる子供のような表情が、その人の本質を物語っていたのではないかと。ホワイトボードを叩き、肩を震わせていたその後姿と共に強く思い出す。

その人は馬鹿だった。他人が出来ることが全然出来ず、助けてほしいと口から出たその言葉は全く裏表を感じさせない心からの声に聞こえた。いつ聞いても誰かに呼ばれて色んなところに顔を出していたし、いつ寝ているのか分からなかった。いつも笑っていて、いつもたくさんの人に囲まれていた。時折見せる大人な表情が、その人の本質を物語っていたのではないかと。会食終わりに迎えに行き、車の中では終始無言で窓の外を眺めていたその横顔と共に強く思い出す。

仕事で行き詰まったときは、決まって二人を思い出す。そして、自分がどちらにもなり切れない凡であることを再認識する。

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