タイヤ交換

自分という一人の人間の輪郭を、ゆっくりと人差し指でなぞっていく。
それはいつだって、出会ってきた人たち、通ってきた場所たち、重ねてきた会話たちによって形取られる。そうやってなぞってみてやっと、ああ、そうか、こういうかたちだったなと自分を再認識できる。追いきれない時間、情報、社会を追いかけているうちに自分が歪み、どんどんと境界が曖昧になっていく。なぞる前と今とでは、きっと同じ形をしていないけれど、まあいいか、と呑気に考える。今日は上手にお野菜を炊くことができた。それでいいか、と呑気に考える。木々は越えた冬の数だけ年輪を刻み、年輪の数だけ強く丈夫になると、何かの本で読んだ。天気予報では今週末雪が降るらしい。あわててタイヤ交換をした。きっとこの先もずっと時間には手が届かず翻弄され続けるだろうけど、まあいいか、と呑気に考える。

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