Flavor of Life

日々の暮らしにおいて何に一番こだわっているかと聞かれたら、迷わず香りだと答える。視覚、聴覚、触覚、味覚、嗅覚。これら5感のうち、僕にもっとも強く作用するのは嗅覚で、香りを上手く利用することで気分を容易に切り替えることができるからだ。若い頃の僕にとって香水は他者に好印象を与えるためだけの道具だったけれど、今は自分の気分をコントロールするための道具として毎日活用している。仕事で気合を入れるための香り。お風呂上がりにさっぱりするための香り。寝る前数時間をリラックスして過ごすための香り。眠れない夜に夜ふかしを楽しむための香り。外出する際に気分を盛り上げるための香り。不安と緊張で頭の中がグルグルしたときに、自分を落ち着かせるための香り。こうやって挙げてみると、常に自分の感情に寄り添って香りが存在しているような気がしてくる。

記憶はいつだって香りとともにあり、香りが忘れていた記憶を連れてきてくれる。秋も深くなり肌寒くなった頃、街の通りを歩いていると不意に鼻にする石油ストーブの灯油の香り。小学生の頃、学校が終わるとその足ですぐに友人の家に遊びに行き、外が暗くなるまでテレビに向かってゲームばかりしていた。友人宅の居間には石油ストーブがあり、その上にはいつもやかんが置かれていた。やかんからは常に白い湯気がたっており、時折そのやかんのお湯を使って友人がホットココアを振る舞ってくれた。普段思い出すことなどない記憶達が、頭の片隅にある棚に香りとともに大切に仕舞われている。僕にはそんな気がしてならない。

今日この日を精一杯楽しむため、今日この日をいつか不意に噛みしめるため、感情・記憶と対になるような香りを、いつも探している。

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