バーチャル・サードプレイス 〜ネットにおける第三の居場所〜

Virtual Thirdplace

サードプレイス 第三の場所

「サードプレイス」とはアメリカの都市社会学者レイ・オルデンバーグ著の「サードプレイス / The Great Good Place」で提唱されている言葉で、自宅をファーストプレイス、職場をセカンドプレイスと定義した上で、その丁度中間にある自分にとって居心地の良い場所(サードプレイス)のことを指す。例えば、カフェや公園などがこのサードプレイスの例としてよくあげられる。僕がスターバックスコーヒーで働き始めたとき、まず最初にこの「サードプレイス」という概念について説明を受けたことを、今でもはっきりと覚えている。まさにスターバックスはこのサードプレイスを理念に掲げ、サービスと居場所を提供するカフェだ。

サードプレイスの特徴

ここではオルデンバーグが定義しているサードプレイスの8つの特徴を引用したいと思う。これらは、サードプレイスというものを理解する上でとても役に立つ要素だ。

1. 中立領域

サードプレイスの利用者は義務感でその場にいるのではなく、何者にも縛られることなく自ら進んでその場にいる。

2. 平等主義

個々人の社会的・経済的地位に関係なく、皆等しく扱われる。また、サードプレイスの参加には一切の条件や要求がない。

3. 会話が主たる活動

サードプレイスでは遊び心やユーモア・ウィットが尊重・評価される場であり気軽にコミュニケーションがとれる場である。

4. アクセスしやすさと利便性

サードプレイスは常に開かれており、誰しもがアクセスしやすい環境である。また、柔軟かつ親切であり、その場に集う人のニーズに応える場である。

5. 常連

サードプレイスには常連がいて、その場の空気を形成している。新たな訪問者に対して親切かつ寛容である。

6. 目立たず控えめ

サードプレイスは健全な場として機能する。見栄の張り合いや派手さはなく、アットホームである。また、その場は排他的であってはならず、どんな人も受け入れる。

7. 上機嫌で遊び心がある

サードプレイスでの会話は、他者を罵倒したり傷つけたりするものであってはいけない。明るく気軽で、ウィットに富み、ユーモアに溢れている。

8. 感情を共有できる

サードプレイスにいる人は、家族のように時に助け合い、優しさを分かち合う。まるで同じ家に暮らす者同士のように。

サードプレイスの必要性

僕たちは普段日常において、家と職場を往復する日々を過ごしている。通勤だけで数時間もの時間を費やしている人も珍しくないはずだ。家に帰っても昔のようなローカルコミュニティがあるわけではなく、両隣に誰が住んでいるかも分からないまま住民同士の関係性が非常に希薄な生活を送っている。

だからこそ、生活(家)と仕事(職場・学校)という2つのペダルを漕ぎやすくするための潤滑油的な場所(サードプレイス)が必要となってくるのである。

今の自分達世代にとってのサードプレイスとはなにか

ここまでは、あくまで「サードプレイス / The Great Good Place」で語られているサードプレイスについて言及してきた。ここからは自分が肌身で感じたことや持論を交えて、現代の自分達世代におけるサードプレイスとは何かということについて綴っていきたいと思う。

前提として、オルデンバーグが語るサードプレイスは現実世界の物理的空間ついて言及されており、仮想世界(ネット)は考慮されていない。また、今日に至っては人が交流する場、心が落ち着く場というのは何も現実世界だけではなく、仮想世界にも多数存在している。たしかに現実世界での人と人との繋がりは、昔に比べて希薄になってきている実感はあるが、その反動としてネット上での繋がりや活動は昔と比較にならないくらい濃密なものになってきているのではないだろうか。それは時に自宅のPCを通して、あるいは外出先でスマホを通してネットに接続する。一日を過ごす中でその大半をネットに接続している時間に費やしている人もぼちぼちいるのではないかと思う。

オルデンバーグが提唱するサードプレイス

だとするならば、今の僕ら世代が必要としているサードプレイスは、現実世界の家と職場を橋渡す居場所だけに留まらず、リアルとネットを橋渡す仮想世界における居場所も必要なのではないだろうか。概念的な話ではその実像があまり浮かんでこないと思うので、次章にて具体例をいくつか挙げながら話を進めさせていただきたい。

バーチャル・サードプレイス

バーチャル・サードプレイス

ここでやっとタイトル回収である。前章で述べた通り今の自分達世代には、現実世界におけるサードプレイスだけではなく、仮想世界におけるサードプレイスも必要なのではないかというのが僕の持論だ。では、仮想世界におけるサードプレイスとは一体どのようなものなのか。具体的な例をいくつかここで挙げたいと思う。

  • 自宅でパソコン作業をしている際に少し休憩がてらネット上で誰かと話す。あるいは、お互いにパソコンで作業をしながら、その時間を通話しながら共有する。
  • オンラインゲームを一緒にプレイしながら通話する。
  • それぞれ家事や雑務をしながら通話し、時間を共有する。
  • 日常生活における悩みごとを、現実世界のしがらみがない相手に相談する。
  • 各自通話しながら自宅にて一人お酒を飲みつつ、時間を共有する。

以上のようなことができるオンライン上のコミュニティは、リアル・ネットのそれぞれの活動をより豊かで充実したものにしてくれると考えている。現実のしがらみとは無縁の気軽なコミュニケーションと、ゆるくひろく繋がることで得られる独りじゃないという感覚。ネットに接続するときにふらりと立ち寄り時間を過ごし、また、リアルに帰る際にまた立ち寄り時間を過ごす。これはまるで家と職場の中間に位置するスタバのようであり、まさにバーチャル・サードプレイスと言えるのではないだろうか。

バーチャル・サードプレイスとしてのDiscord活用

今回このバーチャル・サードプレイスについて語ろうと思ったのは、コロナウイルスのせいで外出自粛を迫られ、その結果、社会から隔絶された日々を過ごすことで精神的に孤立し、孤独を深めている周囲の人を目の当たりにしたからだ。

僕は現在、Discordで小規模ながらも、ここでいうところのバーチャル・サードプレイスのようなサーバーを運営している。Discordには通話しながら作業時間を共有する “作業通話” 専用のサーバーが以前より多数存在しており、リモートワークが求められる今日において、まさにうってつけの環境(居場所)だと感じている。

最近ではリモートワークの関係で自宅で作業をする方が増えているので、僕の運営するサーバーでも、それぞれが自分のリモートワーク作業を行いながら通話し、互いに休憩する際に少し雑談するといった利用方法をする人が増えてきた。中には学校の授業が始まらないので、自主学習時にサーバーを利用する人もいる。家から出ずにスタバで過ごすような体験を得られる(飲みものは各自持参)というのが、バーチャル・サードプレイスの良い点の一つだ。

おわりに

バーチャル・サードプレイスでは、リモートワークでプログラミング作業をしているエンジニアの方が、同席している将来プログラマになりたい高校生の質問に答えたり、その場で意気投合した人たちが共同で作品を作り始めたり、時には高校生の子が社会人の仕事の悩みを聞いたり…。現実世界では起こらないようなことが、ここでは日常的に起こっている。僕はこのバーチャル・サードプレイスにコミュニティの新たな可能性を強く感じている。

明日はどんな人に出会えるだろうか。とても楽しみである。


サードプレイス―― コミュニティの核になる「とびきり居心地よい場所」
レイ・オルデンバーグ, マイク・モラスキー(解説), 忠平 美幸
みすず書房 (2013-10-26)
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