氷さけ

前々から行ってみたかったギャラリーで買った湯呑。そこに地元の日本酒と多すぎるくらいの氷を沈め、人差し指でかき混ぜながら呑んでいる。キンキンに冷えて結露した湯呑にふれると、年明けに登った北アルプスの雪の斜面を思い出す。とても冷たいけれど、どこか優しくて心が穏やかになる感触。良い買い物をしたなと、自分でも思う。

「よいクライマーになる条件はなんですか?」

「よいクライマーの資質はよい人間の資質と同じだよ。夢を見、空想できることだ。クライミングを人生の目的とせず、手段として使うことだ。自分自身を山に閉じ込めずに、山を使うことだ。」

登山家でありクライマーでもあるヴァルテル・ボナッティがインタビューで語った言葉だ。
僕も、よい人間になりたいと思う。もし、誰かにとって、よい人間になりきれているならば、その人にとって、よい人間であり続けたいと願う。

真鍮の受け皿に溢れた水滴が、ディスプレイの明かりを受けてきらきらと輝いている。

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