/ 2020.07.11 /
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音楽を聴くという小さな儀式 / AirPods Pro
音楽を聴くということを意識的に始めたのは中三の冬頃だろうか。初めて自分のお金で買ったアルバムはゴスペラーズの『LoveNotes』で、思春期真っ盛りだった僕は、ゴスペラーズが歌う愛の歌にえらく感銘を受けたことを覚えている。受験勉強を集中して頑張りたいからという大義名分のもと親にCDプレーヤー買ってもらい、毎晩ゴスペラーズを口ずさみながら机に向かっていた。CDをケースからそっと取り出し、CDプレーヤーのトレイにのせる。再生ボタンを押すとディスクがキュルキュルと小気味の良い音を立てながら回転し、数秒経ったころにスピーカーから曲が流れ始める。音楽を聴くというのは当時の僕にとって、ちょっとした儀式だった。それからしばらくしてMDプレーヤーを購入し、好きな音楽をMDに入れて、通学時に聴くようになる。日常にぴったりと寄り添うかたちで、いつもそこには音楽があった。曲を聴けば当時の思い出が浮かび上がり、思い出には必ず曲が添えられていた。
AirPods Proをケースから取り出し、耳に押し込む。すうっと喧騒が息を潜め、ゴスペラーズの「永遠に」がイヤホンから流れ始める。ゴスペラーズが語る愛は、今の僕には少々カロリー過多だが、音楽を聴くことが儀式だったあの頃を思い出す。Wikipedia曰く、儀式とは一定の形式、ルールに基づいて人間が行う、日常生活での行為とは異なる特別な行為のことをさすそうだ。AirPods Proは音楽を聴くことがほんの少しだけ特別な行為だと思い出させてくれる、そういう道具だ。