/ 2025.09.20 /
OUTDOOR /
太田の大トチノキ































朝6時に起きてすぐに顔を洗い、寝癖のままにキャップを被り、前日用意したザックを担いで車に乗る。今日は国指定天然記念物である「太田の大トチノキ」を見に行こうと前々から決めていた。場所は白山市白峰大道谷。今回は今までと違い、車を山の麓にデポして若干山道を歩く必要がある。(厳密には車で木のすぐ傍まで行けるらしいが、情報が古く道も荒れているため歩くことにした)
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天気予報は降水確率75%。けれど、1時間単位の予報でいくと雨が降り始めるのは午後からなので、朝早くに行けば大丈夫だろうと踏んでの早起きだった。空は曇天。昨晩こしらえたspotifyのプレイリストを流しながら1時間近くドライブ。途中激しい通り雨に遭うが、現地に着く頃には若干晴れ間が覗いていた。車を路肩に駐め、助手席からザックを引きずり出して担ぐ。熊鈴の耳障りな音が車内に鳴り響く。道路沿いにある堂埜森神社まで行き、手を合わせる。熊と出会いませんように。お賽銭を持って行ったが、賽銭箱は設置されていなかった。深々とお辞儀をし、境内を後にする。
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今回は娯楽品としてNothing Ear(open)を持ってきていた。このイヤホンはオープンイヤー型なので耳を塞ぐことがなく、周囲の音もしっかりと聞こえるので、山行時でも使用可能と判断してのことだった。予めspotifyでダウンロードしておいた「蟲師」のサントラを流しながら、ひたすら山道を歩く。まるで蟲師の世界に入り込んだような感じがして、最高に気分がいい。沢の音、鳥の鳴き声、風が木々を揺らす音、そして僕が地面を踏む音。緩やかな登りの勾配が3kmぐらい続く。途中、喉が渇いたのでコンビニで買ったイオンウォーターを飲もうと思ったが、車の後部座席に見事に忘れてきてしまった。仕方がないので沢の近くまで歩いて行き、ザックの中に念の為入れてあった浄水セット(SAWYER マイクロスクィーズフィルター & CNOC Vesica 1L)を取り出し、水を汲む。久しく使ってなかったせいか浄水速度が異様に遅く、砂漠のど真ん中で水筒逆さにぽつぽつと落ちる水滴を舐めるあの構図で水を飲む。1分ぐらい頑張った後、腹を壊す覚悟を決めて沢の水をそのまま飲む。美味い。
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水分補給したおかげで元気がでたのか、不意に走りたくなり、走り始める。しばらく走ると、開けた場所に出たので一服する。この瞬間、生を謳歌していると強く感じる。ススキが風に吹かれて揺れている。僕も一緒になって揺れる。獣がもしこの姿を見ていたとしたら、ひどく滑稽に映っただろう。
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目的地である太田の大トチノキに到着。手につけていたApple Watchで時間を確認しようと思ったら、電池が切れていた。まあいい。枝打ちされ、まっすぐ伸びた杉の木と、自由奔放に枝をつけた大トチノキのコントラストに、うまく言葉にできない感慨が湧いてくる。写真で見るのと実物で見るのではやはり大きく印象が異なり、とにかくでかい。いままで何本か巨木を見てきたが、太田の大トチノキはこの山のヌシのようなオーラがある。木ではあるが、岩のようでもあり、まるで地形のような。山がもし、自分の背中を掻くための手を必要としたら、こういうものがはえてくるのかもしれない。樹齢は推定1300年。物思いに耽っていると、大きな音を立てて樹皮が剥がれ落ち、地面に当たって砕け散った。一部の幹(太い枝?)は葉が全て落ち枝だけとなっており、どうやら腐りかけているようだった。長く生きてるんだもんな。そうだよな。という気持ちになり、木を支えるための柱やワイヤーの存在が、急に痛々しく感じてくる。木から離れたところに腰掛けて、木を眺めながら一服。蟲師の11話に出てくる大きな白いクチナワのことを考えていた。この木がヌシだったとして、それはどんな生き物の姿を借りるだろうか。やっぱりヘビだろうか。あるいは。