異邦性 (alterity)

まず最初に「異邦性」の定義について語りたいと思う。ブラウザを開きgoogleの検索フォームに“異邦性”と入力しenterを押すと、“異方性”に置き換えられたうえで検索がかかる。つまり、恐らくだが“異邦性”という言葉自体は存在しない(あるいは存在しているとしても一般的ではない)。
僕が言う「異邦性」とは従来の“異邦”の意味を汲みつつも、その性質について表した物だとまずはざっくりと頭の中に入れていただきたい。つまりはこうだ。

異邦性(alterity)

  1. 内に入り込んだ外部
  2. 理解・同化できない他者性が、すでにこちら側にある状態
  3. 自分・社会・文化の内部にある“馴染まなさ”

※ちなみに、異邦性に宛がわれた”alterity”はchatGPTと議論して決めた

近い概念としては、ジークムント・フロイトの「不気味なもの(Unheimilich)」や、ジュリア・クリステヴァの「内なる異邦人」、そしてエマニュエル・レヴィナスの「他者の不可侵性」というものが挙げられるように思う。見慣れているはずなのにどこか違和感を覚える。異邦人は外にいるのではなく、我々自身の中にいる。他者を決して理解しきることはできず、絶対的な外部として常に在り続ける。そういう物達を僕の都合で綯い交ぜにしたものが「異邦性(alterity)」だ。

◇ ◇ ◇

20代の10年をかけて、僕は散々「自分探し」を行った。けれど、その結果辿り着いた一つの結論は、アイデンティティの不在である。もしかするとそれは雲のようなもので、(自己から脱し)遠く離れて見ることでしか認知できないものなのではないかと、確かな手応えなど端からないのではないかとも思った。
そこから30代の10年をかけて、僕の中に“僕”が無いのであれば、僕を認知する他者や僕を包むようにして存在する世界自体を僕に取り込み、それを“僕”(のアイデンティティ)と定義したらよいのではないかと、そう思うようになった。内圧と外圧のバランスが取れたところに安定した境界が置かれるように、“僕”という存在もきっとまたそうなのだろうと。

40代(厳密にはまだ30代)の年に入り、少しばかり自分について内省を行った。30代に積み上げたものを肯定しつつも、何か足りていないものがまだ在るような気がしていた。それが自己の異邦性である。20代の頃散々行った「自分探し」の過程で、紛い物だと思って切り捨ててきた異物。それが異邦性だった。もっと平易な言葉で表現するならば“僕の中にある、僕とは到底思えないようなものたち”である。それが、僕が“僕”に取り込むことを最後まで拒んでいたワンピースだったように思う。

◇ ◇ ◇

本当の自分、ぶれていない唯一の核としての自分を探すのではなく、自分の中に“自分じゃないもの”を探していくプロセス。理解しきれない、統合もできない、けれど排除もできない、そういう「他者性」と向き合い、引き受けていくこと。そこにゴールはないし、完成形となるアイデンティティもない。代わりに「更新され続ける未完成さ」を自己とすること。この「異邦性」と向き合うことが40代のテーマになりそうだ。

◇ ◇ ◇

「異邦性」という視座を得たうえで、他者と(しいては社会と)どういう関係が築けるだろうか?もっというと、どういう関係を築きたいと考えるか?僕はこう考える。“分かり合う”ことに軸足を置くのではなく、“関わり合う”ことに軸足を置くことを美とする。端的に箇条書きするなら以下の理解となる。

  • 分かり合う軸
    • 相手を理解可能な対象として置く
    • 共通点・合意・透明性を重視する
    • 分からない部分については
      • (自身が分かるように)説明させる
      • 矯正する
      • 排除する
  • 関わり合う軸
    • 相手を不透明なままの存在として扱う
    • 合意よりも持続可能性を重視する
    • 分からない部分については
      • 分からないままとしつつ関係はやめない

「異邦性」を“解消すべき問題”や“いずれ理解できる差”と捉えるのではなく、“関係を成り立たせる前提条件”として捉えること。少し乱暴かもしれないが、これが自分なりの「多様性」に続く道だとも考える。“多様性=理解し合おう”ではなく、“多様性=衝突しながらも共存できるか”ということ。「わかってあげること」ではなく「わからなくても居場所を奪わないこと」。多様性を大事にするのではなく、多様性を壊さない条件について考え続けることが、それすなわち多様性なのではないかと。

自己を起点に話を飛躍させすぎたが、“僕”が僕を投企する方向が見えたということ。そのことが何よりここで語りたかったことであり、この先も僕が“僕”に対して語り続けなければいけないことである。

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