人人は広い野原の真中に、私を遠巻きに取り巻いた。恐ろしい人の群れで、何千人だか何万人だか分からない。風景も液体でできていて、放置したアイスクリームの盛り合わせみたいに、ただの色となって滴り落ちてしまいそうだった。小村はコーヒーに砂糖を少しだけ入れて、スプーンで静かにかきまわした。そして一口飲んだ。素粒子のように、人知れず世界の隙間をすり抜けていく女の後ろ姿を私は思い浮かべた。コーヒーは薄くて、味がなかった。素粒子を受け止めようとするように、両手を合わせて宙に掲げていた姿をよみがえらせた。コーヒーは実体としてではなく、記号としてそこにあった。俺はこんなところで一体何をしているのだろう。そうしながらいつか宇宙で一番美しい光をみようとしている、彼女の願いについて考えた。冬。真夜中。月が照っている。目を閉じたらおしまいだ、とでもいうかのように両目は瞬きさえ忘れて宙をにらんでいた。外された眼鏡は、シーツの皺の間に埋もれていた。頬を伝うよだれの白い筋と、ひび割れた唇ににじむ血の色だけが、どうにか彼女の生命がまだ絶えていないことを証明しているようだった。冬。真夜中。月が照っている。