コロンビアの香り

良くないことというのは、立て続けに起こるというのがこの世の法則らしい。どんなに頑張っても、どんなに無理をしても、自分にはどうすることも出来ないことがあって、それが歯がゆく、悔しく、悲しく、また、理不尽だと感じる。まっすぐ家に帰る気分にもなれず、そういえばコーヒー豆が切れていたな、と思い出し、いつもの豆屋に立ち寄る。特にお気に入りの豆があるわけでもないので、目についた豆を指差し、店員さんに注文をする。「前回購入いただいた、コロンビアの香りはどうでしたか?」とレジを打ちながら店員さんがこちらに問いかける。ああ、そういえば前回そんなのを買って帰ったな…と思い出すが、うまく言葉にできず「美味しかったですよ!香りは全然分からなかったですけど…」と、とっさに返す。店員さんは笑いながら「そうでしたか!美味しかったのなら良かったです。いつもおすすめした豆を買っていただけるので、とても嬉しいです」と、笑顔で答えた。特に豆へのこだわりがないため、店員さんにおすすめされたものをそのまま買っていただけだったのだが、喜んでもらえたのなら嬉しいな、と心が少し軽くなる。と、同時にコロンビアの良い香りを不意に思い出す。「あ!!今思い出したんですけど、コロンビア。とってもいい香りでした!また、おすすめ楽しみにしています!」僕の口が勝手に早口で答える。周囲で作業をしていた店員さんも笑っていた。きっと来週の今頃、また豆が切れた僕はこの店に立ち寄るだろう。そこで取るに足らない何気ない会話を交わし、店を出るだろう。僕が置かれている状況は1ミリも1パーセントも、1ビットも好転はしていない。けれど、僕が置かれている状況を支える日常は、こういう取るに足らない、些細で、何気ないものごとで出来ている。

Index
Prev