ギンコ

母からメッセージが届いた。近い将来、目が見えなくなるかもしれないと。薄々分かっていた。真っ先に湧いてきたのは、僕が見えなくなってしまうことへの、僕自身の悲しさだった。この期に及んで自分のことか、とつくづく情けなくなる。なんて返せばいいのか。なんて声を掛けたらいいのか。沢山の言葉が頭を駆け抜け、そして、そのどれのひとつも適切だとは思えなかった。ギンコのように片目を差し出すことができればよかったのに。僕はいつだって誰かの不幸を肩代わりする準備ができている。けれど、僕が肩代わりできる不幸など、ありはしなかった。多次元に囚われたクーパーのような気分だ。目の前にいるのに、何も変えられないというのは本当に悲しいことだ。いや、違う。変えられないかもしれないけれど、出来ることはあるはずで。出来ること総力戦で臨むほかない。僕は希望を持つ側ではなく、持たせる側なのだから。

Index
Prev
Next