ハリー・ハリー・ローズマリー

8月も折り返しに近づき、台風7号が迫ってきている。鉛色をした雲が、山の上に留まってこちらを睨んでいる。僕は見て見ぬふりをして、園芸屋さんへと出掛けた。売れ残って育ちすぎたローズマリーの鉢を連れて帰る。ローズマリーの育て方について調べ、挿し木と水差しで株を増やすことができると知った。そのくせ植え替えを嫌うらしい。まったくひねくれた性格をしている。ハリーポッターシリーズを全作ぶっ通しで観て、ファンタスティック・ビーストシリーズも3作目まで観た。降って湧いた非日常も、長く続けば基礎となり、その上に日常が築かれていく。サルトルは希望なく行動することを説いた。人は主体的に自らを生きる投企なのだとも。希望を抱かず、そして絶望もせず、ただ、目の前のことに自分を拘束する過程で、僕は自らを投企し続けている。家に連れて帰る過程で折れてしまったローズマリーの枝を貰い、ちぎった葉を鶏肉にのせ、焼いて食べた。どこにでもある鶏肉のハーブ焼きだけど、僕には不思議と特別な味がした。

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