港にて

朝起きると外は呆れるくらいの暑さで、寝室とベランダを区切るガラスのドアを境界にしてまるで2つの違う世界が並んでいるようだ。昨晩使ってベランダに置きっぱなしにしていた霧吹きの中の水は、すっかりお湯になっていた。自室でずっと育てていた植物たちをベランダに移してからというもの、随分と調子が良くなった。こんな猛暑だというのに、焼けるような日差しや溶けて無くなりそうな気温も全く気に止めず、すくすくと育っている。心なしか、葉も大きく太くなってきているような気がする。そんな中僕といえば、猛暑に晒された植物たちに若干の後ろめたさを感じながら、冷えた寝室で寝返りをうち、再び眠りにつこうとしている。小学生の頃の夏休み、たったひと夏で何足ものビーチサンダルを履き潰した。今思えばバカとしか言いようがないが、どこへ出かけるにもビーチサンダルを履き、サッカーの時ですらビーチサンダルで駆け回った。僕だけじゃない。みんな当時はそうだった。夏休みが終わる頃になると、玄関には紐が千切れたビーチサンダルと、底が擦れてツルツルになったビーチサンダルが履き捨てられ、足は擦り傷切り傷だらけ、全身は日焼けで真っ黒焦げだった。少し出かけようかと思い立ち、寝室を出る。適当な服に着替えて、ビーチサンダルを履き、車に乗る。車内温度は42度を差している。あの頃の僕なら「あちー!」と叫びながら、はしゃいだだろうか。エアコンの設定温度を18度、風量を最大にして、海へと向かう。刺すような日差しでは目をあけていられないし、溶けて無くなりそうな気温にはすっかり参ってしまう。助手席にのっている小学生の僕は、目を輝かせながら遠くの風景を眺め、後部座席にのっている高校生の僕は、ずっと携帯をいじりながら誰かとメールをしている。大人になった僕は、車内の皆が快適に過ごせるようエアコンの風向きを細かく変えたりしながら、熱中症にならないかしきりに気にしている。しばらく車を走らせると港に着いた。この港は皆が知っている港だ。小学生の僕は父と来た。高校生の僕は彼女と来た。大人の僕は君たちと。君たちを連れてここに来た。

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