「難しい」はかんたん

最近会話をしていて、色々考えたあげく「難しいね」という一言で結んでしまうことが多々ある。「難しい」という言葉を口にした瞬間、自分が重ねた思考や思慮の軌跡が「難しい」という言葉が持つ意味の強さと単純さに絡め取られて消えてしまうような感覚を覚える。言葉にすれば「難しい」としか言いようがないが、頭の中では「難しい」という一言ではまとめきれないほど大きい、靄のようなものが思考全体を覆っていることがほとんどだ。そういう出来事が増えるにつれ、安易に言葉にしてしまうことに対して慎重になる瞬間が増えている気がする。端的にまとめられたものはとても口当たりが良く、また表現も明快だが、何か大切なことが、失ってはいけないものが、どこか目につかないところからするりと抜け落ちてしまうのではないかと、ふとした時に不安になってしまう。物事にはいろんな側面がある。状況は常に変化する。そして、僕の感じ方も、あなたの感じ方も心境や環境の変化によって一定を保つことはできない。まとめて言葉にした瞬間、それは過去に向かって進み、今を正確には伝えてくれない。いや、だからこそ、まとめられない靄のようなものを言葉にして残していくことが大事なのかもしれない。

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