旅する木

以前水槽があったところには、コーヒーメーカーや収納BOXなどが隙間を埋めるように置かれている。以前水槽があったころには、金魚が2匹泳いでいた。最後まで性別が分からなかったが、3年以上を一緒に過ごした。亡くなった金魚はみんな桜の木の根本に埋めた。今、その桜は満開を迎えている。時間は一定の速度を保ちながら確実に進んでいく。亡くなったのは、ついこの前のような気もするし、随分前のことのようにも感じる。水槽も、濾過器も照明も、全部知人に譲ってしまったので、今、水槽の名残をとどめるのは水底に沈めていた流木のみだ。水槽から取り出された流木は、役目を終えたことを悟ったかのように、あっという間に風化しひび割れてしまった。最初見たときはショックだったけれど、時間を経て、今はとても美しいと感じる。いつも手元に残されるのは、朧気な思い出と、当人にしか意味を持たない暗号のような遺物だ。

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